村上春樹さんの小説には好きなものがたくさんあるけれど、『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』が特に好きだ。

並行するふたつの世界。

例えば、この世界という層と、もうひとつの世界という層。本当はもっとたくさんの層が折り重なっているのだろうけれど。

この世界では、澄ました顔をして淡々とパソコンを叩き、社交辞令を交わし、すれ違い様ににこりと挨拶をする、互いをあまりよく知らないふたり。

もうひとつの世界では、武装集団に占拠されたフィルムノワールな街を端から端まで一緒に駆け抜けるバディ。

普段「もうひとつの世界」をあえて意識することはないけれど、それはまるで聴こえないベースラインのようにずっとどこかで鳴っていて、ふとしたタイミングで感情が交差する。

瞳がたくさんの世界をつないでいる。超えて、つなぐ、不思議な虹彩。

そんな想像をしてみる。